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東京高等裁判所 昭和36年(ナ)1号 判決

原告 手塚治良

被告 栃木県選挙管理委員会

補助参加人 小野崎良一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「昭和三十六年五月五日施行された塩谷村村長選挙に関し、原告のなした当選無効の異議の申立を棄却した同村選挙管理委員会の決定に対して原告のなした訴願につき、被告が同年八月十一日なした訴願棄却の裁決を取り消す。右選挙における補助参加人の当選は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は栃木県塩谷郡塩谷村の基本選挙人名簿に登録されている選挙人であり、且つ昭和三十六年五月五日施行された同村の村長選挙における立候補者である。

二、右選挙での開票の結果は投票総数九、四二九票、有効投票数九、二〇三票、無効投票数二二六票、候補者である補助参加人の得票数四、六二〇票、原告の得票数四、五八一票、候補者である訴外萩原佑介の得票数二票であるとして、塩谷村選挙管理委員会は補助参加人を当選人として告示した。

三、原告と当選人補助参加人との得票差は右のとおり三九票であるが、このような差が生じたのは開票管理者が次のように当然無効とさるべき投票を有効投票として補助参加人の得票数に算入し、原告に対する有効投票とさるべき投票を無効投票と決定した結果であり、従つてもし適正に投票の有効無効を決定したならば原告が遥かに高点をもつて当選人となつたのである。すなわち、

(1)、「ちやん」と記載された投票六八票は、有効投票として補助参加人の得票数に算入されたけれども、「ちやん」とは栃木県の一部の農村地方で社交上相手方に対して「君」とか「貴方」とか呼ぶのと同様に、第二人称の呼称として使用せられ、また相手方に対する敬称として「さん」と同様に使用されているのであつて、第二人称として使用される場合の「ちやん」は本来は父親に対する呼称であつたものが、年輩の男を「おやぢ」と呼んだり、女を「かあちやん」と呼んだりするのと同様に、相手方に対する親愛の情を表するために転化して使用されるに至つたものである。しかし、これも戦前成人した年配層においてのみ使用せられ、戦後の教育を受けた青年層では、塩谷村においてさえ敬称として使用される以外は、第二人称としては全く使用されていない状況である。従つて、たんに「ちやん」という記載だけでは固有名詞とはならず、年配層の人々の間でもし補助参加人を「ちやん」と呼んでいるものがあるとすれば、それと同数以上に原告を「ちやん」と呼ぶ者がいるのである。従つて、補助参加人はその選挙用ポスターに「ちやん」と記載したものを使用したけれども、「ちやん」が補助参加人であるとは一般に通用しない。現に、原告の応援弁士中には『補助参加人は「ちやん」ではなく「あんちやん」(侮辱した意)であり、塩谷村を治める本当の「ちやん」は原告である。』旨の演説を各所で行つた事実があり、「ちやん」とは決して補助参加人の通称ではなく、同人のみに固定化した呼称でもなく、あくまで第二人称にすぎない。このような投票を、有効として補助参加人の得票中に算入したのは違法である。

(2)、また、「」、「小理」、「」、「おの」、「」、「おのぎ」、「オノキ」、「リヨワジ」、「おのき」、「おざぎ〔手書き文字〕」、「リヨチ」、「小野沢」、「おザキ」、「オノカナ」、「オノヲ七」、「」、「大野沢」、「」、「めのせき」、「ふ野」、等文字の記載全く不明確であつて、何人に投票したか判定しがたく当然無効なる投票二十数票を補助参加人に対する有効投票として算入し、更に「×小野崎」なる投票は明らかに小野崎良一に対する不信任を表示した他事記入のものであり、また「オノザキちん」と記載した投票は、補助参加人をやゆして「ちやん」を「ちん」ともじつたものであり、いずれも無効投票であるのに有効投票として小野崎良一の得票に算入された。

(3)、原告に対する投票中、「手塚良治レ」「塩谷村長手塚」「よし」「手塚沼食」「手塚治良一」のように他事記入でもなく、明らかに原告に対する有効投票とさるべきものを無効投票と決定した。

四、よつて原告は昭和三十六年五月十一日塩谷村選挙管理委員会に対し補助参加人の当選の効力に関して異議の申立をなしたところ、同月二十六日原告の右異議の申立は棄却されたので、原告は更に同月二十九日被告に対し訴願をなしたが、被告は同年八月十一日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、右裁決は翌十二日原告に送達された。

五、被告は右裁決において、原告の上記三の主張の一部を認めたのみで、結局「ちやん」なる投票及びその他上記三の(2)記載の投票の大部分を補助参加人に対する有効投票と認め、且つ上記三の(3)記載のように原告に対する有効投票とせらるべきものを無効と判断したもので違法である。

六、仮りに、「ちやん」と記載された投票が通称を記載したものとして有効であるとするならば、原告もまた「ちやん」と呼称されていたのであるから、右投票は公職選挙法第六八条の二第一項に該当し、同第二項に基き按分して原告の得票にも算入されるべきである。この場合においても、原告の得票数は補助参加人の得票数よりも多数となるので、原告が当選人と決定されるべきであつた。

七、以上いずれの理由からしても、被告のなした裁決は違法であるから、その取消並びに補助参加人の当選を無効とする旨の判決を求めるため、本訴に及ぶ。

被告は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告の上記主張事実のうち一、二、三のうち原告主張の記載のある各投票のあつたこと、及び四の点はいずれも認めるが、その他の点はすべて争う。「ちやん」は補助参加人の通称と認められるのであるから、「ちやん」と記載された投票は同人に対する有効投票とするのが相当である。また、その他の原告主張の投票についても、被告のなした投票の効力判定について、原告主張のような判断の誤りはないから、被告の裁決に何等違法は存在しない。

証拠関係〈省略〉

理由

一、原告が栃木県塩谷郡塩谷村の基本選挙人名簿に登録されている選挙人であり、且つ昭和三十六年五月五日施行された同村村長選挙に立候補したこと、右選挙での開票の結果は、投票総数九、四二九票、有効投票数九、二〇三票、無効投票数二二六票、候補者である補助参加人の得票数四、六二〇票、原告の得票数四、五八一票、荻原佑介の得票数二票であるとして、塩谷村選挙管理委員会は補助参加人を当選人として告示したこと、原告が同年五月十一日付塩谷村選挙管理委員会に対し、補助参加人の当選の効力に関して異議の申立をなしたところ、同月二十六日右異議の申立は棄却されたので、更に原告は同月二十九日被告に対し訴願をなしたが、被告は同年八月十一日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなしたことは、いずれも当事者間に争がない。成立に争のない甲第一号証によれば、被告は右裁決をなすに当り、原告主張の各投票の効力について判断したほか、全投票について点検し審査した結果、有効投票数九、一九七票、無効投票数二三二票となり、有効投票数のうち各候補者の得票数は補助参加人が四、六一六票、原告が四、五七九票、荻原佑介が二票で、塩谷村選挙管理委員会が決定した当選人補助参加人の得票数は落選人である原告のそれより三七票多く、当選の効力には何等の影響がないものと認めていることが明らかである。

二、よつて被告のなした右裁決の当否についてこれを判断する。

(1)、原告は「ちやん」と記載された投票は六八票存在し、被告がその大部分を補助参加人に対する有効投票と認めたのは違法であると主張する。当審での検証の結果及びいずれも成立に争のない甲第二号証、第三号証の一ないし百一(いずれも証拠保全に係るもの)によると、「ちやん」、「ちヤん」、「ちヤン」、「チヤン」と記載された投票が合計六三票(もつとも、そのうちの一票は「チフン」と記載されているが、「フ」は「ヤ」の字の一画「ヽ」を脱落したものと認められるから「チヤン」と記載した投票と同視することとして以下判断する。)存在するほか、

(イ)  「ちやん」と記載された投票 一票(甲第三号証の八十九)

(ロ)  「」と記載された投票  一票(甲第三号証の八十五)

(ハ)  「ヽチン」と記載された投票 一票(甲第三号証の四十五)

(ニ)  「小チヤン」と記載された投票      一票(甲第三号証の三十一)

(ホ)  「小野チヤン〔手書き文字〕」と記載された投票  一票(甲第三号証の六十一)

右計五票が存在することが認められ、他に右認定を動かし、「ちやん」とのみ記載された投票が六八票あることを認めるにたる証拠はない。従つて原告主張の六八票は上記認定の六八票を指すものと認められる。ところで右(イ)及び(ハ)の各投票はいずれも他事を記入したものであり、(ニ)及び(ホ)の各投票は「ちやん」という意味に関する後記の判断と合せ考えれば、補助参加人の姓の誤字又は脱字と認められるので、補助参加人に対する有効投票と認めるのを相当とする。上記甲第一号証によれば、被告はその裁決において右同趣旨の判断をしていることが明らかであるから、右(イ)、(ハ)、(ニ)及び(ホ)の投票四票の効力の判定については右裁決になんの違法もない。((ロ)の投票一票についての判断はしばらくおく。)

よつて、右(イ)ないし(ホ)の投票五票を除いた「ちやん」、「ちヤん」、「ちヤン」、「チヤン」(以下たんに「ちやんん」というときは「ちヤん」、「ちヤン」、「チヤン」を含むものとする)と記載した投票六三票の効力について判断する。

いずれも成立に争のない乙第一ないし第三号証と証人関正行、近藤シゲ、柿沼チヨセ、福田米次、蓼沼郡治、晴山うめ、安達延一郎、斉藤定次、篠田剛、田代俊平、小野崎甚一、斉藤甲太郎、小野崎トラ、伊藤正夫、古川巧の各証言を綜合すると、次の事実を認めることができる。がんらい「ちやん」とは栃木県の北部農村地方の家庭内で父親を指称するのに用いられる言葉で、小さな仲間の親方ないし大将や相当の年配の男子に対する尊称と愛称の意味を含めて第二人称の呼称としても転化して使用されるようになつたものであるところ、補助参加人は父親のようによく他人の面倒をみるというところから、古くから誰れいうとなく親愛の情をこめて「ちやん」と呼ぶようになり、塩谷村の全区域とはいえないが、特に同人の居住する旧玉生村の大部分と旧大宮村及び旧船生村(いずれも塩谷村に合併された村である)の各一部では、同人は日常生活において一般の人から「ちやん」と呼び慣らされてきた。このような状況にあつたので補助参加人は本件選挙に際し、選挙運動のためのポスターとして、中央部に「小野崎良一」と大書しその左方上部に自己の写真を掲げ、且つその下部に「ちやん」と横書したものを用い、また「ちやん」という呼名を用いてしばしば言論による選挙運動を実施したものである。また、同人は昭和三十二年五月十日施行された合併後成立の塩谷村の第一回村長選挙にも立候補し当選したが、右選挙においても、「小野崎良一ちやん」、「小野崎ちやん」、「小野ザキチヤン」、「オノザキチヤン」、「オノザキチン」と記載した投票計九票のほか、氏名を記載することなく、たんに「ちやん」とのみ記載した投票三三票が存在し、これら投票はすべて候補者である補助参加人に対する有効投票として処理され、何人からも異議の申立がなされなかつたものである。上記認定の事実に徴すれば、本件選挙当時「ちやん」は補助参加人の通称ないし俗称として、塩谷村内の旧玉生村の大部分及び旧大宮村、旧船生村の各一部で一般に慣用されていたものと認めることができるので、「ちやん」と記載された上記六三票の投票はいずれも補助参加人に対し向けられたものと認めるのを相当とする。

もつとも、前掲乙第一号証、証人手塚文男、斉藤修一、有坂豊一、長島経佳、吉成喜一、和気賢、手塚鉱永、斉藤隆光、石川甚啓、大木つな、大島正祐、片見武男、八木沢恒雄、吉田清治、村上義彦、吉田苗成、村上孝、笹沼孝之、手塚恭、石下正、福田順一郎、小島敬雄、吉田一吉の各証言(但し右各証人の証言中後記信用しない部分を除く)を綜合すると、塩谷村では現在でも家族が父親を「ちやん」と呼ぶ家庭が稀にないではないことを認めることができるけれども、立候補制を採用している現行選挙制度のもとでは、選挙人は候補者のいずれかに投票するのが普通であるから、「ちやん」と記載された投票は、その選挙人が自己の父親に投票したものと判断することは選挙人の意思に反するものであり、従つて、上記認定のように塩谷村に現在でも父親を「ちやん」と呼んでいる家庭の存在することは「ちやん」と記載された投票がいずれも補助参加人に対してなされた投票であるとの上記認定を動かすにたらない。また、上記各証拠によれば、原告が約六、七年前居村である旧大宮村の大宮農業協同組合の組合長に就任し、その後しばらくたつてから右組合関係の一部のものから、主として組合大会又は酒席などで組合長に対する親愛の情を示すために「農協のちやん」又は「ちやん」などと呼ばれるにとどまり、ただの「ちやん」の語が原告の氏名に代る通称又は俗称として使用されるまでには至つていないことが認められる。また、昭和三十二年五月十日及び昭和三十六年五月五日各施行の塩谷村村長選挙の投票の検証の結果によれば、次の事実が認められる。補助参加人に関しては、昭和三十二年五月十日施行の選挙において、補助参加人の姓名又は姓を特に記入してその下部に「ちやん」と記載した有効投票が九票、本件選挙においては右同様「小野崎」なる姓を特に記入してその下部に「ちやん」と記載した有効投票(その有効であることは原告も争つていない)が六票各存在するに反して、原告に対する有効投票中には、原告の姓名、姓又は名の下部に「ちやん」と記載された投票は全く存在しない。右認定の事実は、「ちやん」は補助参加人の通称又は俗称として使用されていたとの上記認定を裏付けるとともに、原告の通称又は俗称として使用されるまでに至つていないとの上記認定を裏付けるものである。前掲各証人の証言中以上の認定に副わない部分はたやすく信用できないし、他に上記認定を動かし、「ちやん」が原告の氏名に代る呼び名として一般に慣用されていることを認めるにたる証拠はない。従つて「ちやん」と記載された投票が原告に対する投票であると認めることはできない。

なお前掲乙第一号証と証人片見武男、八木沢恒雄、吉田清治、村上孝、笹沼孝之、手塚恭、石下正、福田順一郎、小島敬雄、吉田一吉、村上義彦、吉田苗成の各証言を綜合すれば、本件選挙に際し、原告のための選挙運動員が選挙人に対し原告のための投票を依頼するに当り、「ちやん」に頼む旨原告を指して「ちやん」と述べたこと及び原告のための応援演説をなすに当り、『候補者小野崎良一は「ちやん」は「ちやん」でも「あんちやん」(侮蔑した意)であつて、塩谷村を治める本当の「ちやん」は手塚治良である。』との趣旨の口演を行つたことを認めることができるけれども、このような場合は原告のための選挙運動員という立場や用語の前後の関係から「ちやん」が原告を指称しているものであることが容易に推認できるのであるし、且つ「ちやん」が補助参加人の氏名に代る通称又は俗称であり、原告の通称又は俗称になつていないことは前段認定のとおりであるから、上記認定の事実があるからといつて、ただちに「ちやん」と記載された投票が原告のためになされたものであると認定するにはたりない。

ところで、公職選挙法第四六条第一項によれば、選挙人は投票用紙に候補者の氏名を記載しなければならないが、その氏名は通称又は俗称を記載しても右投票は有効と解すべく、原告の主張のように「君」、「貴方」その他たんに抽象的に第二人称の呼称として使用される場合と異り、候補者である補助参加人の通称又は俗称として使用されている「ちやん」なる記載の上記投票六三票はすべて同人に対する有効投票と認めるのを相当とする。

次に原告は予備的に、「ちやん」と記載された投票は、公職選挙法第六八条の二によつて原告と補助参加人の両名に按分して計算されるべきである旨主張するけれども、上記認定のとおり、「ちやん」は原告の氏名に代る通称又は俗称ではなく、右投票は原告に対して向けられたものと認められないのであるから、原告の右主張は採用できない。

(2)、原告は

(イ)、「」、「小理」、「」、「おの」、「」、「おのぎ」、「オノキ」、「リヨワジ」、「おのき」、「おざぎ〔手書き文字〕」、「リヨチ」、「小野沢」、「おザキ」、「オノカナ」、「オノヲ七」、「」、「大野沢」、「」、「めのせき」、「ふ野」と各記載した投票合計二十数票

(ロ)、「×小野崎」と記載した投票一票

(ハ)、「オノザキちん」と記載した投票一票

について、右(イ)の投票は何人に投票したか不明確であり、(ロ)の投票は他事を記入したものであり、(ハ)の投票は補助参加人をやゆして「ちやん」を「ちん」ともじつたものであるからいずれも無効と解すべきであるのに、被告はその裁決においてこれを有効と認めた違法があると主張するので判断する。原告は右(イ)の投票は二十数票とのみ主張しその正確な票数を明示していないが、原告主張の各記載のある投票の存在することは被告の認めるところであつて、前掲甲第一号証によると、右のような投票は合計二十四票で、被告はいずれもその裁決においてこれを補助参加人に対する有効投票と認めていることが明らかである。ところで、右(イ)の各投票(但し「オノカナ」「オノヲ七」「」の三票についてはしばらくおく)は、それぞれその記載自体から判断して誤字、脱字、書き損じ、訂正、又は字を書くことに親しまない選挙人の拙劣な記載によるもので、いずれも補助参加人の氏又は名を記載したものと推測できるから、補助参加人に対する有効投票と認めるのを相当とする。

右(ロ)の投票は、前掲甲第一号証によれば、被告人の裁決において原告主張のとおり他事を記入したものとして無効と認めていることが明らかであるから、被告のなした裁決の適否に影響をきたさない。

右(ハ)の投票一票の存在することは当事者間に争がなく、右投票は選挙人が「オノザキちやん」と書く意思を有していたが、「や」の一字を脱落したにすぎないものと認めるのが、公職選挙法第六七条後段の規定の趣旨に副うものであつて、原告主張のように補助参加人をやゆし又は侮蔑したものと認めることは相当でないから、右一票も同候補者に対する有効投票と認めるを相当とする。

(3)、原告が原告に対する有効投票を無効投票と判断されたと主張する投票五票について。

前掲甲第一号証によると、「手塚良治レ」「塩谷村長手塚」「手塚沼食」と各記載された投票計三票については、被告の裁決において、原告の主張を認めこれを原告に対する有効投票と認めて各候補者の得票の計算をなしていることが明らかであるから、右裁決の適否にはなんらの影響を与えない。

「よし」とのみ記載された投票一票は、補助参加人、手塚治良(原告)の両候補者の名に「よし」と読まれる文字があり、ただ「よし」だけではいずれの候補者に投票したのか確認しがたいので無効投票と認むべきである。

「手塚治良一」と記載された投票一票は、「一」が他事記入と認められるし、また補助参加人の名と原告の氏名を混記したものとも認められるから、無効投票であつて原告に対する有効投票と認めることはできない。

四、上記説示のとおり原告の主張は失当であつて、上記二(1)の(ロ)の投票一票、「オノカナ」「オノヲ七」「」とそれぞれ記載した投票各一票計四票についての判断をまつまでもなく、補助参加人の得票数が原告の得票数よりも少くとも三十四票多いことが明らかで補助参加人の当選の効力になんの影響もないのであるから、原告の訴願を棄却した被告の裁決にはなんの違法もなく、その取消並びに補助参加人の当選の無効を求める原告の本訴請求は理由がないものとして棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

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